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人気イラストレーターの川名すずさんに聞く、「自分にあった紙」を選ぶヒント【インタビュー】
川名すず(かわな・すず)
東京都出身のイラストレーター。アルコールマーカーを使用した彩度の高いイラストを中心に作品を発表。近年はデジタルイラストも多く手がけているほか、個展の開催、SNSでの制作動画投稿、イベントや通信制高校などでの講師など、多方面で活躍している。
Instagram:@spicaboy
X:@n7spicaboy
絵画やイラストの創作に欠かせない文房具。そのなかでも、作品の完成度を左右する重要なアイテムといえるのが「紙」です。近年ではパソコンやペンタブレットなどを使って絵を描く「デジタルイラスト(デジタル絵画)」が人気ですが、アナログにはアナログの魅力やメリットがたくさんあります。
しかし、アナログ派のなかには「手描きが好きだけど自分に合った紙の選び方がわからない」「描きやすく、作品のクオリティーを高められる紙を使いたい」と悩んでいる方もいるでしょう。そこで今回は、アルコールマーカーを使ったキャラクターイラストが人気のクリエイター、川名すずさんをゲストにお招きし、アナログイラストの魅力や「自分にあった紙」の選び方についてお話をうかがいました。
――はじめに、絵を描くようになったきっかけと、絵を仕事にしていこうと思ったきっかけをお聞かせください。
物心ついたころには絵を描きはじめていたので、きっかけは覚えていないですね。コミケ(コミックマーケット)に出るようになってから、「創作って楽しいな」と感じるようになりました。絵を描くことを仕事にしようと思うようになったのはそのころですね。
――イベントの登壇など、絵を描く以外の活動もされているんですね。
そうなんです。現在は北海道芸術高等学校東京池袋サテライトキャンパスで高校生にイラストを教える講師の仕事もしています。今こうして高校生に絵を教えているというのはなんだかとても感慨深いです。
物心ついたころには絵を描きはじめていたので、きっかけは覚えていないですね。コミケ(コミックマーケット)に出るようになってから、「創作って楽しいな」と感じるようになりました。絵を描くことを仕事にしようと思うようになったのはそのころですね。
――イベントの登壇など、絵を描く以外の活動もされているんですね。
そうなんです。現在は北海道芸術高等学校東京池袋サテライトキャンパスで高校生にイラストを教える講師の仕事もしています。今こうして高校生に絵を教えているというのはなんだかとても感慨深いです。
――アナログで描く際、紙の質感や描き心地などは気にされるほうですか?
気にするほうです。ある程度引っかかりがあって、なおかつよく滑ってくれると線を引きやすいですよね。ですがその一方で、アルコールマーカーは引っかかりすぎるとブラシが傷んでしまいます。ポスターカラーマーカーを使ったことがある人ならわかると思いますが、マーカーで描いたところをグリグリ塗りつぶしていると画用紙の表面が削れてしまう。紙によっては、あれと同様の現象がアルコールマーカーでも起こる可能性があると思っています。
いろいろな紙がありますが、私が以前コラボさせていただいたマルマンさんの『ヴィフアール水彩紙』はそうした現象が起こりにくい質感のような気がしますね。
気にするほうです。ある程度引っかかりがあって、なおかつよく滑ってくれると線を引きやすいですよね。ですがその一方で、アルコールマーカーは引っかかりすぎるとブラシが傷んでしまいます。ポスターカラーマーカーを使ったことがある人ならわかると思いますが、マーカーで描いたところをグリグリ塗りつぶしていると画用紙の表面が削れてしまう。紙によっては、あれと同様の現象がアルコールマーカーでも起こる可能性があると思っています。
いろいろな紙がありますが、私が以前コラボさせていただいたマルマンさんの『ヴィフアール水彩紙』はそうした現象が起こりにくい質感のような気がしますね。
――『ヴィフアール水彩紙』を使われたきっかけはありますか?
他の作家さんが使っているのを見て、「使ってみたい」と思ったのが最初だった気がします。はじめはケント紙を使っていたのですが、ケント紙ではアルコールマーカーの透明色で線の境目を伸ばしてぼかす手法を使っていました。でも、それだと彩度が落ちる気がして苦手だったんです。『ヴィフアール』は水彩紙なのでインクの吸収が遅く、あせらずにグラデーションを作ることができます。紙はいろいろ試しましたが、『ヴィフアール』が好きです。
発色がきれいな水彩紙と聞き、『アルシュ水彩紙』 も試したことがあります。実際、発色に深みがあってきれいだったのですが、水の含みが非常によいため「塗っても、塗っても、終わらない」という状況になり、うまく扱えませんでした。それに対して『ヴィフアール』は吸収率がちょうどよく、値段も手頃なので使い勝手がとてもいいんです。マーカーを使うようなイラスト作品にも向いている紙であることは、もっと知られてほしいですね。
――インクの乾き具合や発色は、他の紙と比べてどうでしょうか?
『ヴィフアール水彩紙』は、少し乾きが遅いかもしれないですね。私の感覚では、水彩紙にアルコールマーカーで描くと、紙の表面ではなくなかに色が積まれていくイメージです。塗り方にもよると思いますが、私はどんどん塗り込んで色を重ねていくタイプなので、そういう技法には耐久性の高い水彩紙が合っている気がします。
他の紙では塗った後に少し色が薄くなると感じることもありますが、『ヴィフアール』はしっかりと発色してくれます。
他の作家さんが使っているのを見て、「使ってみたい」と思ったのが最初だった気がします。はじめはケント紙を使っていたのですが、ケント紙ではアルコールマーカーの透明色で線の境目を伸ばしてぼかす手法を使っていました。でも、それだと彩度が落ちる気がして苦手だったんです。『ヴィフアール』は水彩紙なのでインクの吸収が遅く、あせらずにグラデーションを作ることができます。紙はいろいろ試しましたが、『ヴィフアール』が好きです。
発色がきれいな水彩紙と聞き、『アルシュ水彩紙』 も試したことがあります。実際、発色に深みがあってきれいだったのですが、水の含みが非常によいため「塗っても、塗っても、終わらない」という状況になり、うまく扱えませんでした。それに対して『ヴィフアール』は吸収率がちょうどよく、値段も手頃なので使い勝手がとてもいいんです。マーカーを使うようなイラスト作品にも向いている紙であることは、もっと知られてほしいですね。
――インクの乾き具合や発色は、他の紙と比べてどうでしょうか?
『ヴィフアール水彩紙』は、少し乾きが遅いかもしれないですね。私の感覚では、水彩紙にアルコールマーカーで描くと、紙の表面ではなくなかに色が積まれていくイメージです。塗り方にもよると思いますが、私はどんどん塗り込んで色を重ねていくタイプなので、そういう技法には耐久性の高い水彩紙が合っている気がします。
他の紙では塗った後に少し色が薄くなると感じることもありますが、『ヴィフアール』はしっかりと発色してくれます。
――紙はどのように使い分けていますか?
好きな紙を使ってよい場合は『ヴィフアール水彩紙』を使うことが多いですね。『ヴィフアール』の紙は少し黄色がかっているので、真っ白なほうが映える場合にはやや青白い紙を使います。
ただ、『ヴィフアール』の黄色がかった色味にはメリットもあって。それが、イラストに温かい雰囲気を持たせられることと、さらにホワイトを使ってもう1段階白くできることです。「もう1段階白く」については真っ白い紙だとできないので、この手法が最後に残されているのは『ヴィフアール』ならではの楽しさだと思います。
――『ヴィフアール』のラインアップには3種類あります。川名さんにとってはどれが使いやすいですか?
荒目や中目は細いペンだと潰れたりかすれたりするので、私は細目が好きですね。
好きな紙を使ってよい場合は『ヴィフアール水彩紙』を使うことが多いですね。『ヴィフアール』の紙は少し黄色がかっているので、真っ白なほうが映える場合にはやや青白い紙を使います。
ただ、『ヴィフアール』の黄色がかった色味にはメリットもあって。それが、イラストに温かい雰囲気を持たせられることと、さらにホワイトを使ってもう1段階白くできることです。「もう1段階白く」については真っ白い紙だとできないので、この手法が最後に残されているのは『ヴィフアール』ならではの楽しさだと思います。
――『ヴィフアール』のラインアップには3種類あります。川名さんにとってはどれが使いやすいですか?
荒目や中目は細いペンだと潰れたりかすれたりするので、私は細目が好きですね。
――厚みやサイズ感についてはどのように捉えていますか?
厚みはちょうどいいですね。『ヴィフアール水彩紙』は、ある程度の厚みがあるのでシワになったり曲がったりすることはあまりありません。A4のサイズ感も、印刷ができて便利です。
――今回お持ちいただいた線画は、印刷したものだとうかがいました。
いろんな意見があると思いますが、私の場合は「線画はデジタルでもOK」という線引きを設けて、アナログとデジタルを混ぜあわせて制作することが多いですね。例えば、サンプル(下の画像)の髪の毛の奥側部分はデジタルのフォーカス処理でぼかしていますが、これをアナログで描こうとすると大変です。線画を印刷することでよりいろんな表現の作品をつくれるようになりました。
生徒にアルコールマーカーの作品を制作してもらうときも、線画は印刷してもよいことにしています。もっと手軽に楽しんでもらえたらいいと思っています。
厚みはちょうどいいですね。『ヴィフアール水彩紙』は、ある程度の厚みがあるのでシワになったり曲がったりすることはあまりありません。A4のサイズ感も、印刷ができて便利です。
――今回お持ちいただいた線画は、印刷したものだとうかがいました。
いろんな意見があると思いますが、私の場合は「線画はデジタルでもOK」という線引きを設けて、アナログとデジタルを混ぜあわせて制作することが多いですね。例えば、サンプル(下の画像)の髪の毛の奥側部分はデジタルのフォーカス処理でぼかしていますが、これをアナログで描こうとすると大変です。線画を印刷することでよりいろんな表現の作品をつくれるようになりました。
生徒にアルコールマーカーの作品を制作してもらうときも、線画は印刷してもよいことにしています。もっと手軽に楽しんでもらえたらいいと思っています。
――現在はデジタルとアナログ、どれぐらいの割合で描かれているのですか?
そうですね……去年くらいからデジタルの仕事も増えはじめて、現在はデジタルのほうが多いかもしれません。アナログは間違えたら後戻りできないので、デジタルに慣れてからはアナログで描くときの緊張感が増した気がします。
――デジタルを経験してから、アナログの描き方に変化はありましたか?
デジタルを通ったからこそ、「自分の思い描く完成形が見えやすくなった」というのはあります。その完成形を頭に置きながらアナログの彩色を行うと、作品自体がどんどんきれいになっていく感じがあるんです。
――川名さんがデジタルを使って描きはじめたのは、わりと最近なのでしょうか?
中学生のころに一度、挫折した経験があります。「板タブ(ペンタブ)」が苦手で、合わなかったんですよね……。そこで、「デジタルみたいな絵をアナログで描こう!」と思って行き着いた先がアルコールマーカーでした。
デジタルイラストに再びチャレンジした理由は、iPadのおかげです。「板タブ」や「液タブ」とは異なり、はじめは紙のように端末ごと回して描いたりして、iPadのおかげでなんとかデジタルでも描けるようになりました。
――アナログで描くことのメリットはありますか?
アナログのよさは、やはり「原画があること」ですね。原画は展示もできるし、販売することもできます。デジタルをメインに活動されている方も色紙にイラストを描く機会はあると思うので、アナログでも描けると楽しいと思います。
とくに線画の技法は、緊張するとペン入れをする筆の運びが遅くなるため線が太くなってしまうことがあります。その際、例えば口元などでは「輪郭線を描く際はペンのサイズを0.1ミリ落とす」といったようなテクニックを知っておくと、線が太くなるのを回避できますね。こうした手法はデジタルにも応用できるので便利です。また、デジタルで色を塗るようになってから、アナログイラストの色の塗り方も変わった気がします。
――両方を経験したことによる相乗効果といえそうですね。逆に、デメリットを感じることはありますか?
あえていうなら、デジタルの完成形に寄せようと意識しすぎると、それにあわせようとして泥沼から抜け出せなくなる点でしょうか。当然ですが、やはりアナログとデジタルでは再現ができるものが違います。デジタルの完成形を見て参考にするのは、固有色と影の位置ぐらいにとどめておくほどにしています。
そうですね……去年くらいからデジタルの仕事も増えはじめて、現在はデジタルのほうが多いかもしれません。アナログは間違えたら後戻りできないので、デジタルに慣れてからはアナログで描くときの緊張感が増した気がします。
――デジタルを経験してから、アナログの描き方に変化はありましたか?
デジタルを通ったからこそ、「自分の思い描く完成形が見えやすくなった」というのはあります。その完成形を頭に置きながらアナログの彩色を行うと、作品自体がどんどんきれいになっていく感じがあるんです。
――川名さんがデジタルを使って描きはじめたのは、わりと最近なのでしょうか?
中学生のころに一度、挫折した経験があります。「板タブ(ペンタブ)」が苦手で、合わなかったんですよね……。そこで、「デジタルみたいな絵をアナログで描こう!」と思って行き着いた先がアルコールマーカーでした。
デジタルイラストに再びチャレンジした理由は、iPadのおかげです。「板タブ」や「液タブ」とは異なり、はじめは紙のように端末ごと回して描いたりして、iPadのおかげでなんとかデジタルでも描けるようになりました。
――アナログで描くことのメリットはありますか?
アナログのよさは、やはり「原画があること」ですね。原画は展示もできるし、販売することもできます。デジタルをメインに活動されている方も色紙にイラストを描く機会はあると思うので、アナログでも描けると楽しいと思います。
とくに線画の技法は、緊張するとペン入れをする筆の運びが遅くなるため線が太くなってしまうことがあります。その際、例えば口元などでは「輪郭線を描く際はペンのサイズを0.1ミリ落とす」といったようなテクニックを知っておくと、線が太くなるのを回避できますね。こうした手法はデジタルにも応用できるので便利です。また、デジタルで色を塗るようになってから、アナログイラストの色の塗り方も変わった気がします。
――両方を経験したことによる相乗効果といえそうですね。逆に、デメリットを感じることはありますか?
あえていうなら、デジタルの完成形に寄せようと意識しすぎると、それにあわせようとして泥沼から抜け出せなくなる点でしょうか。当然ですが、やはりアナログとデジタルでは再現ができるものが違います。デジタルの完成形を見て参考にするのは、固有色と影の位置ぐらいにとどめておくほどにしています。
――とっておきたいと思う原画はどんなものですか?
やっぱり額装してある作品は好きです。去年の12月に開催した個展で展示した際、この絵はとくにずっと立ち止まって見てくださる方が多かったんです。 職人にお願いして額装してもらったのですが、やはりきれいに額装していただくと見栄えが変わりますね。『ヴィフアール水彩紙』はある程度厚みがあって額の中でもたわまないので、額装にも適した紙だと思います。
――アナログで絵を描きはじめた方、またはこれから描こうと思っている方に向けてメッセージはありますか?
「まずは完成させることが重要」だと思います。描ききって完成させるのは楽しいですし、なにより満足感が違いますから。「大変だな」と思うかもしれませんが、完成させなければわからないこともたくさんあります。
アナログの場合は、紙との相性が大切です 。紙の選び方で一番大事なのは、「描き心地」以上に「自分の描きたい完成形と近いかどうか」だと思います。すべての画材や技法と相性がいい紙なんておそらくないので、多少使い勝手が悪かったとしても、自分が納得する完成形が描けるようになれば、その紙が自然と「使いやすい紙」になっていくのではないでしょうか。
アナログの描画に挫折する理由の多くは紙にあると私は思っています。なので、画材(筆記用具)ももちろんですが、紙もしっかり選んでもらえたらうれしいですね。最適な紙の種類は人によってさまざまですが、相性のよい紙を見つけられたら絵画やイラストは今よりもっと楽しくなるはずです。自分の理想を見つけるために楽しみながらチャレンジしてみてください!
やっぱり額装してある作品は好きです。去年の12月に開催した個展で展示した際、この絵はとくにずっと立ち止まって見てくださる方が多かったんです。 職人にお願いして額装してもらったのですが、やはりきれいに額装していただくと見栄えが変わりますね。『ヴィフアール水彩紙』はある程度厚みがあって額の中でもたわまないので、額装にも適した紙だと思います。
――アナログで絵を描きはじめた方、またはこれから描こうと思っている方に向けてメッセージはありますか?
「まずは完成させることが重要」だと思います。描ききって完成させるのは楽しいですし、なにより満足感が違いますから。「大変だな」と思うかもしれませんが、完成させなければわからないこともたくさんあります。
アナログの場合は、紙との相性が大切です 。紙の選び方で一番大事なのは、「描き心地」以上に「自分の描きたい完成形と近いかどうか」だと思います。すべての画材や技法と相性がいい紙なんておそらくないので、多少使い勝手が悪かったとしても、自分が納得する完成形が描けるようになれば、その紙が自然と「使いやすい紙」になっていくのではないでしょうか。
アナログの描画に挫折する理由の多くは紙にあると私は思っています。なので、画材(筆記用具)ももちろんですが、紙もしっかり選んでもらえたらうれしいですね。最適な紙の種類は人によってさまざまですが、相性のよい紙を見つけられたら絵画やイラストは今よりもっと楽しくなるはずです。自分の理想を見つけるために楽しみながらチャレンジしてみてください!