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マンガ『ペンと手錠(ワッパ)と事実婚』の作者に、作品へのこだわりやスケッチブックへの想いを聞いてみた【インタビュー】
椹木伸一(さわらぎ・しんいち)
マンガ家。『ヤングアニマル』(白泉社)にて連載中のマンガ『ペンと手錠(ワッパ)と事実婚』の原作者。マンガや小説など媒体を問わずミステリーへの深い知識を生かした本格的なミステリー描写が持ち味で、テンポのよいコメディ描写も得意とする。
X:@Sawaragishin
ガス山タンク(がすやま・たんく)
マンガ家、イラストレーター。『ヤングアニマル』(白泉社)にて連載中のマンガ『ペンと手錠(ワッパ)と事実婚』では作画を担当。女性キャラクターのデザインに加え、アニメーターとして活躍していた経験をいかした躍動感のある動きや空間を意識した描写にも定評がある。
X:@ganntannku
マンガ家。『ヤングアニマル』(白泉社)にて連載中のマンガ『ペンと手錠(ワッパ)と事実婚』の原作者。マンガや小説など媒体を問わずミステリーへの深い知識を生かした本格的なミステリー描写が持ち味で、テンポのよいコメディ描写も得意とする。
X:@Sawaragishin
ガス山タンク(がすやま・たんく)
マンガ家、イラストレーター。『ヤングアニマル』(白泉社)にて連載中のマンガ『ペンと手錠(ワッパ)と事実婚』では作画を担当。女性キャラクターのデザインに加え、アニメーターとして活躍していた経験をいかした躍動感のある動きや空間を意識した描写にも定評がある。
X:@ganntannku
青年マンガ雑誌『ヤングアニマル』にて好評連載中の『ペンと手錠(ワッパ)と事実婚』。中年刑事の切鮫鋭二(きりさめ・えいじ)が、声を出さない不思議な女子高生、梔子鶫(くちなし・つぐみ)に出会い、意図せぬ“婚姻関係”に翻弄されながらも、バディとしてさまざまな事件を解決していく「歳の差ミステリーラブコメ」 です。
女子高生の鶫は作中、コミュニケーションの手段として「スケッチブックでの筆談」を用いています。なぜそのような主人公が誕生したのか、作品にはどのようなこだわりが散りばめられているのか――。制作の裏話や『図案スケッチブック』への想い、マンガ家を志望する方へのアドバイスなども含め、原作者の椹木伸一先生と作画担当のガス山タンク先生へいろんなお話を聞いてきました。
――『ペンと手錠(ワッパ)と事実婚』の主人公である女子高生・鶫(つぐみ)は、一言も声を発さずに筆談で会話や推理をするキャラクターです。推理マンガとしては斬新な設定のように感じますが、本作が生まれた経緯について教えてください。
椹木:もともと僕は別名義でマンガを描いていたのですが、かねてから「推理モノをやりたい」と強く思っていました。ミステリーマンガが大好きで、少年時代はそれで育ったようなものでした(笑)。それで推理モノの企画をずっと考えていたのですが、なかなかうまくいかずに行き詰ってしまって……。
ガス山:そんなときに、半ば冗談から「一言もしゃべらない探偵」の設定が生まれたって教えてくれましたよね。
椹木:だから本当に実現できるのかどうか、正直怪しかったんですよね(笑)。読み切り の作品なら通用しても、果たして「連載」として続けていけるのかと。でも、鶫にスケッチブックを持たせる(スケッチブックをコミュニケ―ションツールにする)という設定でなんとかなりました。
――本作のもっとも重要な設定は、冗談から生まれたものだったのですね。おふたりがタッグを組んで連載することになった経緯も気になります。
椹木:推理モノの連載はとても大変で、原作も作画も全部自分でやろうとすると時間や手間がものすごくかかってしまうんですよね。ちょうど 、白泉社さんへネーム(※)を持ち込んで相談したところ、うまい具合に 話が進み、編集者さんから作画担当としてガス山先生を紹介してもらいました。
※コマ割りやコマごとの構図・セリフ、キャラクターの配置などを大まかにまとめた資料。ラフや絵コンテなどともよばれる。
ガス山:実は私 も、椹木先生とほぼ同時期に白泉社さんへマンガの持ち込みをしていたんです。それで、椹木先生がネーム持ち込みの際にお話をした編集者さん――今の私たちの担当編集者さんです――が「椹木先生の原作と相性がいいのでは?」ということでつなげてくださって。最終的に、ネームをもとに描き分けたキャラクターデザインを7パターンほど作成し、椹木先生に見てもらいました。
椹木:もともと僕は別名義でマンガを描いていたのですが、かねてから「推理モノをやりたい」と強く思っていました。ミステリーマンガが大好きで、少年時代はそれで育ったようなものでした(笑)。それで推理モノの企画をずっと考えていたのですが、なかなかうまくいかずに行き詰ってしまって……。
ガス山:そんなときに、半ば冗談から「一言もしゃべらない探偵」の設定が生まれたって教えてくれましたよね。
椹木:だから本当に実現できるのかどうか、正直怪しかったんですよね(笑)。読み切り の作品なら通用しても、果たして「連載」として続けていけるのかと。でも、鶫にスケッチブックを持たせる(スケッチブックをコミュニケ―ションツールにする)という設定でなんとかなりました。
――本作のもっとも重要な設定は、冗談から生まれたものだったのですね。おふたりがタッグを組んで連載することになった経緯も気になります。
椹木:推理モノの連載はとても大変で、原作も作画も全部自分でやろうとすると時間や手間がものすごくかかってしまうんですよね。ちょうど 、白泉社さんへネーム(※)を持ち込んで相談したところ、うまい具合に 話が進み、編集者さんから作画担当としてガス山先生を紹介してもらいました。
※コマ割りやコマごとの構図・セリフ、キャラクターの配置などを大まかにまとめた資料。ラフや絵コンテなどともよばれる。
ガス山:実は私 も、椹木先生とほぼ同時期に白泉社さんへマンガの持ち込みをしていたんです。それで、椹木先生がネーム持ち込みの際にお話をした編集者さん――今の私たちの担当編集者さんです――が「椹木先生の原作と相性がいいのでは?」ということでつなげてくださって。最終的に、ネームをもとに描き分けたキャラクターデザインを7パターンほど作成し、椹木先生に見てもらいました。
――今のキャラクターデザインを採用した決め手はなんだったのでしょうか?
椹木:鶫が持つ目の吸引力と透明感、そしてサラサラと風になびく髪の毛の感じがすごく素敵だなと思って選びました。僕が描いたネームの段階ではロングヘア想定だったのですが、ガス山先生が描いてくれたイラストはショートカットで。すぐに「あ、これはいい!」となりました。
ガス山:よかったです(笑)。
――ちなみに、タブレットやノートなどではなくスケッチブックを採用した理由はあるのでしょうか?
椹木:一番の理由は、ぱっと見での 視認性の高さです。
ガス山:タブレットやノートでは文字が小さく、コマの手前のほうまで手を伸ば さないと読みにくくなってしまいますからね。
椹木:でも、その動作ってちょっと 不自然ですよね。その点、サイズが大きなスケッチブックはなにかと都合がよかったんです。マジックペンで太い文字が書けて、ひとつのコマで顔と文字を一緒に見せられますから。
ガス山:鶫の下手な……いや、味のある文字や絵をしっかり見せたいと(笑)。
椹木:スケッチブックは本作品の肝ですからね!それで、「スケッチブックといえばマルマンの『図案スケッチブック』だろう」ということになり、イメージを使わせていただきました。
椹木:鶫が持つ目の吸引力と透明感、そしてサラサラと風になびく髪の毛の感じがすごく素敵だなと思って選びました。僕が描いたネームの段階ではロングヘア想定だったのですが、ガス山先生が描いてくれたイラストはショートカットで。すぐに「あ、これはいい!」となりました。
ガス山:よかったです(笑)。
――ちなみに、タブレットやノートなどではなくスケッチブックを採用した理由はあるのでしょうか?
椹木:一番の理由は、ぱっと見での 視認性の高さです。
ガス山:タブレットやノートでは文字が小さく、コマの手前のほうまで手を伸ば さないと読みにくくなってしまいますからね。
椹木:でも、その動作ってちょっと 不自然ですよね。その点、サイズが大きなスケッチブックはなにかと都合がよかったんです。マジックペンで太い文字が書けて、ひとつのコマで顔と文字を一緒に見せられますから。
ガス山:鶫の下手な……いや、味のある文字や絵をしっかり見せたいと(笑)。
椹木:スケッチブックは本作品の肝ですからね!それで、「スケッチブックといえばマルマンの『図案スケッチブック』だろう」ということになり、イメージを使わせていただきました。
――マンガならではの見せ方の工夫から、鶫というキャラクターが誕生したのですね。
椹木:「マンガならでは」というか、「マンガでしかできない 」というか……。むしろほかの媒体のことはまったく考えていませんでした。そもそもアニメ化を念頭に置くなら、主人公の女の子は絶対に声を発する設定にしたほうがいいですからね。でも、僕たちにとってはマンガが成立すればいいので、「そこはもうどうでもいい!」と(笑)。
――マンガの表現において、ほかにもこだわりを持っているポイントはありますか?
ガス山:マンガではリズム感がとても大事。テンポよくページをめくってもらえるように、ポーズや吹き出しの配置などを工夫して読みやすいようにしています。ただ、鶫の表情については修正がものすごく入りますね(笑)。その意味では、椹木先生のこだわりはとても強いと思います。
椹木:そうですね(笑)。本作品では主人公がしゃべらない、笑わない、はにかまないなど、キャラクターとして表情や動きの制約を厳密に設けているので、僕がいうのも変ですが作画は大変ですよ。それでも鶫のかわいさは出したいし、感情の変化は細かく表現しなければならない。「女の子をかわいく見せる」という点に関して、ガス山先生は“手足を縛られたような状態”だと思います(笑)。なので、初めてお会いしたときにまず「申し訳ないです」と謝罪しました!
ガス山:いえいえ、そんな(照)。でも、描くのが“激ムズ”なマンガであるのは間違いないですね。
椹木:「マンガならでは」というか、「マンガでしかできない 」というか……。むしろほかの媒体のことはまったく考えていませんでした。そもそもアニメ化を念頭に置くなら、主人公の女の子は絶対に声を発する設定にしたほうがいいですからね。でも、僕たちにとってはマンガが成立すればいいので、「そこはもうどうでもいい!」と(笑)。
――マンガの表現において、ほかにもこだわりを持っているポイントはありますか?
ガス山:マンガではリズム感がとても大事。テンポよくページをめくってもらえるように、ポーズや吹き出しの配置などを工夫して読みやすいようにしています。ただ、鶫の表情については修正がものすごく入りますね(笑)。その意味では、椹木先生のこだわりはとても強いと思います。
椹木:そうですね(笑)。本作品では主人公がしゃべらない、笑わない、はにかまないなど、キャラクターとして表情や動きの制約を厳密に設けているので、僕がいうのも変ですが作画は大変ですよ。それでも鶫のかわいさは出したいし、感情の変化は細かく表現しなければならない。「女の子をかわいく見せる」という点に関して、ガス山先生は“手足を縛られたような状態”だと思います(笑)。なので、初めてお会いしたときにまず「申し訳ないです」と謝罪しました!
ガス山:いえいえ、そんな(照)。でも、描くのが“激ムズ”なマンガであるのは間違いないですね。
――作品内で散見される「配慮」についても聞かせてください。たとえば、ヒロインの鶫は「しゃべれない」という設定ですが、誰もそのことを指摘しないのはあえてでしょうか?
椹木:まあ、これは登場人物たちの優しさですね。『ペンと手錠(ワッパ)と事実婚』は、「優しい世界」であってほしいんです。ガス山先生や編集者さんとは、それぞれの特徴を個性として受け入れてもらえる世界がいいよね、っていう話をいつもしています。
鶫に関しては、「そういう探偵がいたらきっとおもしろい」という僕らの都合でキャラクターを誕生させているので、実際に発話障害をお持ちの方と鶫を並べてはいけないと思っています。 設定を具体的に記載すればするほどリアルになってしまい、傷ついてしまう方が出てくるかもしれないという意識はありますね。
――誰も傷つけないであろうとする「優しい世界」なのですね。単行本3巻の巻末には、「女子高生と中年男性の結婚」という設定に対してかなり気をつかったと書かれていました。こちらについても、くわしく教えていただけますか?
椹木:設定のバランスが本当に難しくて悩むことが多いです。自分でつくった世界観なのに(笑)。この先の展開はさておきですが、「切鮫が鶫のことを性的な目で見ない」「鶫からどれだけ迫られても頬を赤らめない」など、今のところは表現において明確な線引きをしています。
第16話で描いた「小指をつないで寝るシーン」も、僕たちの試行錯誤の結果です。どのようなつなぎ方であれば、「いやらしさ」を排除して「エモさ」を表現できるかなと。
椹木:まあ、これは登場人物たちの優しさですね。『ペンと手錠(ワッパ)と事実婚』は、「優しい世界」であってほしいんです。ガス山先生や編集者さんとは、それぞれの特徴を個性として受け入れてもらえる世界がいいよね、っていう話をいつもしています。
鶫に関しては、「そういう探偵がいたらきっとおもしろい」という僕らの都合でキャラクターを誕生させているので、実際に発話障害をお持ちの方と鶫を並べてはいけないと思っています。 設定を具体的に記載すればするほどリアルになってしまい、傷ついてしまう方が出てくるかもしれないという意識はありますね。
――誰も傷つけないであろうとする「優しい世界」なのですね。単行本3巻の巻末には、「女子高生と中年男性の結婚」という設定に対してかなり気をつかったと書かれていました。こちらについても、くわしく教えていただけますか?
椹木:設定のバランスが本当に難しくて悩むことが多いです。自分でつくった世界観なのに(笑)。この先の展開はさておきですが、「切鮫が鶫のことを性的な目で見ない」「鶫からどれだけ迫られても頬を赤らめない」など、今のところは表現において明確な線引きをしています。
第16話で描いた「小指をつないで寝るシーン」も、僕たちの試行錯誤の結果です。どのようなつなぎ方であれば、「いやらしさ」を排除して「エモさ」を表現できるかなと。
――「エモさ」という言葉が出てきましたが、意識して作中に「エモさ」を取り入れているのでしょうか?
椹木:実はそうなんです。とくに最初の頃は、1話に1か所は読者がキュンとするような「エモい描写」を盛り込みたいと考えていました。
ガス山:私のほうでも椹木先生からシーンの意図をくわしく共有してもらったうえで、たとえば風でちょっと髪をなびかせるなど、静止画に動きを持たせるようにしています。そのほうが、感情の動きを絵で察してもらいやすくなるかなと思って。
――美鶴の体重が56kg、鶫が48kgという設定も、実に現実的だと感じました。女性読者からの見え方といったところも意識されていますか?
椹木:体重の設定に関しては、世の中的に「軽すぎる」と思うコンテンツが多いと感じていることもあって 、あえてリアルより にしました。また、作中では「彼氏」ではなく「パートナー」という言葉を使うなど、さまざまな志向や価値観の読者に寄り添えるように努力して います。こういった設定や表現の推敲が功を奏してか、おかげさまで性別を問わず多くの読者さんから「すごく好き」「抵抗なく読める」といった声をいただいています。
ガス山:お話をいただいた当初は「男性向けのマンガなのかな」と思っていたのですが、椹木先生や編集者さんとの打ち合わせ を繰り返すなかで「女性にも読んでもらえる作品」という方向性にすごく共感しました。
椹木:実はそうなんです。とくに最初の頃は、1話に1か所は読者がキュンとするような「エモい描写」を盛り込みたいと考えていました。
ガス山:私のほうでも椹木先生からシーンの意図をくわしく共有してもらったうえで、たとえば風でちょっと髪をなびかせるなど、静止画に動きを持たせるようにしています。そのほうが、感情の動きを絵で察してもらいやすくなるかなと思って。
――美鶴の体重が56kg、鶫が48kgという設定も、実に現実的だと感じました。女性読者からの見え方といったところも意識されていますか?
椹木:体重の設定に関しては、世の中的に「軽すぎる」と思うコンテンツが多いと感じていることもあって 、あえてリアルより にしました。また、作中では「彼氏」ではなく「パートナー」という言葉を使うなど、さまざまな志向や価値観の読者に寄り添えるように努力して います。こういった設定や表現の推敲が功を奏してか、おかげさまで性別を問わず多くの読者さんから「すごく好き」「抵抗なく読める」といった声をいただいています。
ガス山:お話をいただいた当初は「男性向けのマンガなのかな」と思っていたのですが、椹木先生や編集者さんとの打ち合わせ を繰り返すなかで「女性にも読んでもらえる作品」という方向性にすごく共感しました。
――作中で鶫が筆談に使っているスケッチブックですが、普段おふたりもスケッチブックを使う機会はあるのでしょうか?
椹木:僕は幼少期から愛用していますよ。初めて買ってもらったスケッチブックがマルマンの『図案スケッチブック』だったんです!高校時代には、『図案スケッチブック』にマンガを描いていたこともありました。
ガス山:お気づきの方も多いかと思いますが、『図案スケッチブック』風の表紙デザインが作中に何度か登場しているんですよね。
椹木:スケッチブックといえば『図案スケッチブック』ですからね、僕の場合(笑) 。町の文具店でも買える親しみやすさ、そして多くの人になじみのあるアイテムとして、鶫の愛用品にも『図案スケッチブック』のイメージを持たせています。
――椹木先生は、ノートや原稿用紙ではなく『図案スケッチブック』にマンガを描いていたのですか?
椹木:そうなんです。高校時代、あまり出回ってないほぼ絶版状態のマンガを友だちから借りたことがありました。それを返すときに全ページのコピーをとろうか迷ったんですけど、「どうせなら全部描き写してしまおう」「なんなら全部カラーにしてしまえ」と思って。
――全ページ、カラーですか?!
椹木:はい(笑)。描き写したマンガに水彩絵具を使って色をつけました。『図案スケッチブック』は両面を水彩絵具で塗っても紙がよれず、裏移りもしないので重宝しましたね。「手元に残したい」という一心で描き写したのが懐かしいです。
ガス山:『図案スケッチブック』、私も愛用していましたよ。学生時代、美大生がみんな持っているのを見て、憧れて(笑)。アルコールマーカーを使ってキャラクターを描いていました。
――『図案スケッチブック』は、おふたりにとって馴染み深いものだったのですね。
ガス山:そうですね。
椹木:このタイミングでちょっといいにくいのですが、僕はどちらかというと『クロッキーブック』のほうが思い入れは強いんです。というか、実は今もヘビーユーザーでして。
――そうなのですね。どのような使い方をされているのでしょう?
椹木:基本的には、どこへ行くときも持ち歩いています。旅行には絶対に持っていきますね。それで、空港ですごす時間やバスを待つ時間など、暇なときに絵を描くんです。そのときに感じたことをメモしたりして。楽しくて何時間でも潰せますよ(笑)。あとは、旅先で外国の子どもたちとコミュニケーションをとるために、日本マンガの有名なキャラクターや、アメコミタッチのイラストを描いたこともありますね。
椹木:僕は幼少期から愛用していますよ。初めて買ってもらったスケッチブックがマルマンの『図案スケッチブック』だったんです!高校時代には、『図案スケッチブック』にマンガを描いていたこともありました。
ガス山:お気づきの方も多いかと思いますが、『図案スケッチブック』風の表紙デザインが作中に何度か登場しているんですよね。
椹木:スケッチブックといえば『図案スケッチブック』ですからね、僕の場合(笑) 。町の文具店でも買える親しみやすさ、そして多くの人になじみのあるアイテムとして、鶫の愛用品にも『図案スケッチブック』のイメージを持たせています。
――椹木先生は、ノートや原稿用紙ではなく『図案スケッチブック』にマンガを描いていたのですか?
椹木:そうなんです。高校時代、あまり出回ってないほぼ絶版状態のマンガを友だちから借りたことがありました。それを返すときに全ページのコピーをとろうか迷ったんですけど、「どうせなら全部描き写してしまおう」「なんなら全部カラーにしてしまえ」と思って。
――全ページ、カラーですか?!
椹木:はい(笑)。描き写したマンガに水彩絵具を使って色をつけました。『図案スケッチブック』は両面を水彩絵具で塗っても紙がよれず、裏移りもしないので重宝しましたね。「手元に残したい」という一心で描き写したのが懐かしいです。
ガス山:『図案スケッチブック』、私も愛用していましたよ。学生時代、美大生がみんな持っているのを見て、憧れて(笑)。アルコールマーカーを使ってキャラクターを描いていました。
――『図案スケッチブック』は、おふたりにとって馴染み深いものだったのですね。
ガス山:そうですね。
椹木:このタイミングでちょっといいにくいのですが、僕はどちらかというと『クロッキーブック』のほうが思い入れは強いんです。というか、実は今もヘビーユーザーでして。
――そうなのですね。どのような使い方をされているのでしょう?
椹木:基本的には、どこへ行くときも持ち歩いています。旅行には絶対に持っていきますね。それで、空港ですごす時間やバスを待つ時間など、暇なときに絵を描くんです。そのときに感じたことをメモしたりして。楽しくて何時間でも潰せますよ(笑)。あとは、旅先で外国の子どもたちとコミュニケーションをとるために、日本マンガの有名なキャラクターや、アメコミタッチのイラストを描いたこともありますね。
――外国の子どもたちと、というと海外でのお話ですか?
椹木:はい。僕は海外旅行が好きで、以前は仕事の合間を縫っていろんな国へ出かけていました。アフリカのナミビアでは3泊4日のサファリツアーに参加したのですが、日本人の参加者は僕だけ。しかも言語の壁があって誰とも会話ができません。向こうの話はほぼわからない、こっちがいいたいこともほぼ伝わらない……という困った状態で。
――そこで、コミュニケーション手段として『クロッキーブック』を活用されたのですね。
椹木:その通りです。この同じメンバーで3日間やっていかないといけない。夜にはベースキャンプでテントを張らなくてはならない……。そういった状況を、僕は「絵を描く人」として乗り切りました。持っている『クロッキーブック』を広げて絵を描いていると、興味を持った人たちが話しかけてくれるんです。
――なぜ『クロッキーブック』だったのでしょうか?
椹木:僕はA4サイズに近いSSサイズの『クロッキーブック』を持ち歩いていますが、このサイズ感が好きというのが愛用している理由のひとつです。あとは、1冊100ページあるので、書き損じたり切り離して人にあげたりしても、全然もったいない気持ちにならないのもいいですね。
ガス山:それだけ気軽に使えるということですね。
椹木:全然ためらわずに使えます(笑)。1枚が割と薄いので、100ページあってもそれほどかさばらないという点も、持ち運ぶにあたっては魅力的です。
椹木:はい。僕は海外旅行が好きで、以前は仕事の合間を縫っていろんな国へ出かけていました。アフリカのナミビアでは3泊4日のサファリツアーに参加したのですが、日本人の参加者は僕だけ。しかも言語の壁があって誰とも会話ができません。向こうの話はほぼわからない、こっちがいいたいこともほぼ伝わらない……という困った状態で。
――そこで、コミュニケーション手段として『クロッキーブック』を活用されたのですね。
椹木:その通りです。この同じメンバーで3日間やっていかないといけない。夜にはベースキャンプでテントを張らなくてはならない……。そういった状況を、僕は「絵を描く人」として乗り切りました。持っている『クロッキーブック』を広げて絵を描いていると、興味を持った人たちが話しかけてくれるんです。
――なぜ『クロッキーブック』だったのでしょうか?
椹木:僕はA4サイズに近いSSサイズの『クロッキーブック』を持ち歩いていますが、このサイズ感が好きというのが愛用している理由のひとつです。あとは、1冊100ページあるので、書き損じたり切り離して人にあげたりしても、全然もったいない気持ちにならないのもいいですね。
ガス山:それだけ気軽に使えるということですね。
椹木:全然ためらわずに使えます(笑)。1枚が割と薄いので、100ページあってもそれほどかさばらないという点も、持ち運ぶにあたっては魅力的です。
――ガス山先生はアニメーター出身とお聞きしました。デジタルとアナログ、マンガとアニメーションの違いについてくわしいと思いますので、そのあたりのお話をうかがえますか?
ガス山:アニメの制作では紙をペラペラとめくって絵の動きを確認する作業があるので、今もアナログ作画が多いと思います。私もアニメーター時代こそアナログ作画でしたが、高校生の頃からパソコンを使って絵を描いていたこともあり、『ペンと手錠(ワッパ)と事実婚』もデジタルで作画をしています。
――マンガとアニメの違いはどんなところでしょうか?
ガス山:大きな違いは、線の強弱でしょうか。マンガだと強弱があったほうが情緒的でよいと思います。一方、アニメで線に強弱をつけるのはあまり一般的ではありません。
――同じ「イラストを描く」という作業でも違うのですね。
ガス山:そうですね。あとは、これは違いというよりも自分がアニメーター出身だからこその意識なのですが、「空間で絵を描く」という点には強いこだわりを持っています。
――「空間で絵を描く」とは?
ガス山:室内の絵、とくに和室にいる人物を忠実に描くのは難易度が高いんですよね。日本家屋の畳やふすまはおおよそのサイズが決まっていて、読者の多くがその大きさを感覚的に理解しています。しかも和室は線が少なく、ごまかしがきかない。なので、10cmでもずれると途端に「空間としての違和感」が出てしまうんです。なにもないところに人物の絵を描くのが上手な方でも、和室を背景に描くとなったら難しさを感じるかもしれません。
――和室にいる人物を描くのは難しいのですね!
ガス山:そうですね。アニメーターの場合、アニメの脚本や絵コンテを見ながら練習を積むのが一般的かと思います。「和室を描くと絵がうまくなる」というのは、業界的に昔から言われている格言みたいなものですね。私もアニメーター時代、師匠から「和室に5人のキャラクターがいる絵を描け」などといわれて鍛えられました。
椹木:ガス山先生の作画に対するこだわりは本当に素晴らしいです。それこそ単行本5巻のあのシーンでも……いえ、そこはまだ内緒にしておきましょうか(笑)。
ガス山:アニメの制作では紙をペラペラとめくって絵の動きを確認する作業があるので、今もアナログ作画が多いと思います。私もアニメーター時代こそアナログ作画でしたが、高校生の頃からパソコンを使って絵を描いていたこともあり、『ペンと手錠(ワッパ)と事実婚』もデジタルで作画をしています。
――マンガとアニメの違いはどんなところでしょうか?
ガス山:大きな違いは、線の強弱でしょうか。マンガだと強弱があったほうが情緒的でよいと思います。一方、アニメで線に強弱をつけるのはあまり一般的ではありません。
――同じ「イラストを描く」という作業でも違うのですね。
ガス山:そうですね。あとは、これは違いというよりも自分がアニメーター出身だからこその意識なのですが、「空間で絵を描く」という点には強いこだわりを持っています。
――「空間で絵を描く」とは?
ガス山:室内の絵、とくに和室にいる人物を忠実に描くのは難易度が高いんですよね。日本家屋の畳やふすまはおおよそのサイズが決まっていて、読者の多くがその大きさを感覚的に理解しています。しかも和室は線が少なく、ごまかしがきかない。なので、10cmでもずれると途端に「空間としての違和感」が出てしまうんです。なにもないところに人物の絵を描くのが上手な方でも、和室を背景に描くとなったら難しさを感じるかもしれません。
――和室にいる人物を描くのは難しいのですね!
ガス山:そうですね。アニメーターの場合、アニメの脚本や絵コンテを見ながら練習を積むのが一般的かと思います。「和室を描くと絵がうまくなる」というのは、業界的に昔から言われている格言みたいなものですね。私もアニメーター時代、師匠から「和室に5人のキャラクターがいる絵を描け」などといわれて鍛えられました。
椹木:ガス山先生の作画に対するこだわりは本当に素晴らしいです。それこそ単行本5巻のあのシーンでも……いえ、そこはまだ内緒にしておきましょうか(笑)。
――4月28日に最新刊が発売となります。あらためて、本作のおすすめの楽しみ方を教えてください。
椹木:そうですね、「本編の推理」に加えて「鶫が描く絵の読み解き」も楽しめる構成となっている点でしょうか。「伏線」とはちょっと違うかもしれませんが、事件解決後に鶫の絵を見返してみると、また違った楽しみ方ができるかと思います。
ガス山:ぜひ「ダブルの謎解き」を楽しみながら読み進めていただければ幸いです。
椹木:そうですね、「本編の推理」に加えて「鶫が描く絵の読み解き」も楽しめる構成となっている点でしょうか。「伏線」とはちょっと違うかもしれませんが、事件解決後に鶫の絵を見返してみると、また違った楽しみ方ができるかと思います。
ガス山:ぜひ「ダブルの謎解き」を楽しみながら読み進めていただければ幸いです。
――まだ本作を読んだことのない方に向けても、ぜひ一言いただけますか?
椹木:『ペンと手錠(ワッパ)と事実婚』は、ミステリーが好きな方とラブコメが好きな方、どちらの方にもおすすめできる作品だと思っています。ライトなマンガ好きの方にも読んでもらいやすいのではないでしょうか。これを機に、ぜひ手に取っていただけるとうれしいです!
ガス山:作画担当としては、切鮫の表情に注目していただきたいです。私は、マンガのキャラクターを描くときはその人物と同じ表情をしながら描いています(笑)。そのほうが、線にも情緒が入りやすいので。これは有名な先生方もそうだと聞いたことがあるので、間違いないかと思います。
椹木:あっ、それわかります!僕なんて、泣き顔を描くときのために「泣けるDVD」を用意していますよ(笑)
ガス山:泣きながら泣き顔を描くというのもなんかシュールですよね。「作中で切鮫が変な顔をしているな~」と思ったら、ガス山も変な顔をしていると思ってください(笑)。
椹木:『ペンと手錠(ワッパ)と事実婚』は、ミステリーが好きな方とラブコメが好きな方、どちらの方にもおすすめできる作品だと思っています。ライトなマンガ好きの方にも読んでもらいやすいのではないでしょうか。これを機に、ぜひ手に取っていただけるとうれしいです!
ガス山:作画担当としては、切鮫の表情に注目していただきたいです。私は、マンガのキャラクターを描くときはその人物と同じ表情をしながら描いています(笑)。そのほうが、線にも情緒が入りやすいので。これは有名な先生方もそうだと聞いたことがあるので、間違いないかと思います。
椹木:あっ、それわかります!僕なんて、泣き顔を描くときのために「泣けるDVD」を用意していますよ(笑)
ガス山:泣きながら泣き顔を描くというのもなんかシュールですよね。「作中で切鮫が変な顔をしているな~」と思ったら、ガス山も変な顔をしていると思ってください(笑)。
――最後に、このインタビューを読んでいる「マンガ家を目指している方」に向けて、おふたりからアドバイスをいただけますか?
ガス山:他人のネガティブな意見を過度に気にしてしまう方もいるかもしれませんが、あまり気にしないでほしいなと思います。有名な作家さん、人気のある作品にはアンチがいて当然ですし、批判こそ売れている証です。私はそういう意見があったほうがむしろ嬉しいくらいで、まったく気になりません。メンタルを強く持ち、自分の描きたいマンガを追求してほしいですね。
椹木:さすが、ガス山先生は鍛え方が違いますね。僕はけっこう気にしてしまうほうなのですが、それでも、ひとりで描いていた頃と比べて今(ガス山先生とのタッグ)は責任や精神的負担が半分になったというか、「ふたりで一緒につくっている」という感覚が強いので気持ちが軽いです。いつもありがとうございます。
ガス山:こちらこそありがとうございます。……ほめられましたね(笑)。
椹木:ガス山先生がいうように、ある種の「めげなさ」は大切だと思います。いろんな編集部のアポイントをとって持ち込みを続けること。今回の連載にあたって、僕も4、5社は回ったかと思います。たくさん描いて、どんどん人に見てもらいましょう。『ペンと手錠(ワッパ) と事実婚』のように、編集者さんとの出会いや紹介から素敵なマンガが生まれるかもしれません。
ガス山:『図案スケッチブック』や『クロッキーブック』などを使って、たくさん絵やイラストの練習をしてみてください。みなさんが描かれたおもしろい作品に出会える日を楽しみにしています。
ガス山:他人のネガティブな意見を過度に気にしてしまう方もいるかもしれませんが、あまり気にしないでほしいなと思います。有名な作家さん、人気のある作品にはアンチがいて当然ですし、批判こそ売れている証です。私はそういう意見があったほうがむしろ嬉しいくらいで、まったく気になりません。メンタルを強く持ち、自分の描きたいマンガを追求してほしいですね。
椹木:さすが、ガス山先生は鍛え方が違いますね。僕はけっこう気にしてしまうほうなのですが、それでも、ひとりで描いていた頃と比べて今(ガス山先生とのタッグ)は責任や精神的負担が半分になったというか、「ふたりで一緒につくっている」という感覚が強いので気持ちが軽いです。いつもありがとうございます。
ガス山:こちらこそありがとうございます。……ほめられましたね(笑)。
椹木:ガス山先生がいうように、ある種の「めげなさ」は大切だと思います。いろんな編集部のアポイントをとって持ち込みを続けること。今回の連載にあたって、僕も4、5社は回ったかと思います。たくさん描いて、どんどん人に見てもらいましょう。『ペンと手錠(ワッパ) と事実婚』のように、編集者さんとの出会いや紹介から素敵なマンガが生まれるかもしれません。
ガス山:『図案スケッチブック』や『クロッキーブック』などを使って、たくさん絵やイラストの練習をしてみてください。みなさんが描かれたおもしろい作品に出会える日を楽しみにしています。